慣れるまでの試行錯誤。言葉の壁を乗り越えて
河野真由美さん
フランス
かつて旅行で訪れた南プロバンスの風景の色にずっとひかれていた河野さん。派遣されたのはマルセイユ近郊、SAINT-REMY-de-Provenceのホテルの厨房。おいしいと評判のそのレストランには、宿泊客だけでなくわざわざ食べにくる人もいた。フルコースのランチとディナーを作るスタッフは、前菜、メイン、デザートのそれぞれの責任者の下にスタジエと呼ばれる見習いがいて、忙しいときは総勢13、4人。河野さん、実はフランス語は初心者。「まず言葉の壁があるし、お菓子を習いたいと思ってもみんな働いているし、自分が何をしていいかわからなくて最初の2カ月は試行錯誤の連続でした」せめて料理用の動詞や名詞をもっと覚えていくべきだったと後悔した。指示の分量の数字を間違えて、お菓子の材料がうまく固まらなかったこともある。そんなときはスタジエの若い人たちが、彼女をフォローし、助けてくれたのがありがたかった。「欲がでてきたのは4カ月を過ぎたころ。私はシフトもない自由な身分だったのですが、毎日昼も夜も厨房に出て、つたないフランス語でもとにかく話すようにしたんです。君変わったね、と言われて、やっとスタッフの一員として認められるようになったのがすごくうれしかった!一時は研修先の変更をお願いしようかと悩んだくらいなので、やっぱり積み重ねって大事なんだとつくづく感じました」ある日、とうとうデザートの飾り付けをすべて一人でやり遂げることができた。またホテルオーナーのイギリス人夫妻が毎日召し上がるランチメニューを任され、持参した日本の調味料で茶碗蒸しや酢のもの、だし巻き卵など、何回か和食の腕もふるった。芸術的で奥の深い前菜、オリーブオイルにガーリック、香草を使ったメインの肉料理、目にもうれしいデザート。味見させてもらったメニューの数々は野菜も多く、栄養のバランスもとれていたと思う。「サン・レミの町の人たちは、人を招待しても日本のように気負わずに、いつもの食事に少しプラスしてワイン片手にまず歓談、それから夜を長く楽しみます。そんなに裕福ではなくても、生活が楽しいって言うんです。それがとても印象に残りました」