花の仕事は体力と気力。なんでもやってみよう
井口安代さん
イギリス
仕事の現場でずっと切り花を扱ってきた井口さん、「どうせ学ぶなら視野を広げたくて」とガーデニングの研修を選んだ。インターンに合格してすぐその年の6月から3カ月、会社を休職してイギリス中部ノーサンプトンの小さな町Towcesterへ。ホストファミリーはガーデニングの好きなマイケルとジュリィの家。とはいうもののジュリィの本業はパン屋さんで、休日しか家での作業はできない。「2週間たって、そろそろ自分でもなんとか考えなくちゃと思ってたら、『町のナーサリーと花屋さんでそれぞれ週1、2回ずつ、仕事を手伝ってみる?』とジュリィが交渉してくれたんです」イギリスでは8月がブライダルシーズン。本当は「鉢もの」に取組む時間もほしかったが、「切り花部門は女性一人で忙しそうだし、私は経験があるということで主にそちらを手伝うことに」この町では市場に花をセリに行くのではなく、大きなトラックがそれぞれの花屋さんに配送に来る。ロンドンの一番大きな市場の人に聞くと、花のほとんどはオランダの有名なアールスメイヤー市場からの空輸だということだった。「花の質は日本の方が新鮮できれいだと思いました。でも種類はイギリスの方が多かった。真っ赤なグラジオラスや珍しいオレンジ色のカルセオラリアなんて、私が初めて見る花もありました」気候が違うからクレマチスもイギリスでは這うように大きくなるし、夏も涼しいので、ハーブ類だってずっと成長しやすい。花の扱いの違いもいろいろ目についた。「水揚げの仕方は日本では切ったりたたいたり、お湯につけたりといろいろ方法があるのですが、イギリスはただ普通に切るだけ。花束を作るときもただセロハンの上に置いていくだけだし、私から見ると雑に見えてしまう。でも彼らは本当に好きなように花を植えたり、楽しんだりしているんですよね」ブーケやコサージュのイギリス風の作り方を学び、個人宅のウェディングのデコレーションを手伝った。葬儀用の棺の上に置く花輪を作ったのも初めての経験。休みの日にはロンドンやスコットランドへも旅をして、キューガーデンをはじめ、いろいろなフォーマルガーデンも見てきた。やっぱりイギリスはすごいという気持ちと、日本には日本のセンスがあるなと納得した気持ちもある。帰国したあとは2日休んだだけで、職場に復帰。市場に行く日は朝の7時から夜10時、11時まで働く日もあって、相変わらず日本は忙しい。「イギリスで出会った人たちは、そんな生活、信じられないって言います。ファッションショーの会場なんかだと現場で時間と格闘しながら生けていくでしょう。この仕事は体力と気力が勝負。それにお客さんが私の作品を気にいらなくてけなされることだってあるから、神経も図太くないと・・・・・・。でも仕事があるだけありがたいし、今は私にできることをやっていこうって、そう思うようになりました」